ちょっとした心配事や悩みがあって眠れない、旅行先で眠れなくなった、といった経験は誰にでもあると思います。
このような一時的な環境の変化や心理的ストレスで数日間眠れないものを一過性不眠といいます。こうした不眠は原因が解決すれば、やがていつもどおりに眠れるようになることがほとんどです。
不眠が1か月以上続く場合は、不眠症としての治療が必要です。
また、その背後に内科的な病気(喘息、心不全、膠原病)や、精神的な病気(うつ病、統合失調症、神経症)などが隠れていることがあるため、注意しなければなりません。
このような不眠症の原因としては、一般的に以下のようなものが考えられます。
薬原性不眠
何らかの病気の治療のために服用している薬が原因で、眠れなくなることがあります。
また、朝起きてもボーつとしたままですっきり目覚められない、服用後に急に眠くなる、などの症状が起きることもあります。
注意が必要な薬剤としては、抗うつ剤など抗精神病薬、抗ヒスタミン作用のある風邪薬、アトピーや花粉症に処方される抗アレルギー剤などです。また、膀胱炎や胃潰瘍、パーキンソン病、高血圧などの治療に使われる利尿剤も、不眠を引き起こすことがあります。
ただし、こうした睡眠の問題は、同じ薬を飲んだ人なら誰にでも現われるというわけではありません。また、以前は平気だった薬でも、そのときの体調によっては発症することもあります。
症状が出てしまったら、まずは原因となる薬の使用をやめ、他の薬に替える必要があります。その際には自己判断はせず、医師に相談するようにしましょう。
心の病による不眠
睡眠障害をもたらす心の病として、真っ先に挙げられるのは「うつ病」です。うつ病の発症には体質や性格も関与してきますが、はっきりした原因はまだわかっていません。
この病気には特有の不眠が現われます。寝つきが悪く、熟睡感がなく、起きたときに疲れがとれていないのです。夜中にたびたび目が覚め、そこから次第に眠っていたのか起きていたのかわからない状態になり、目が覚めても頭がぼんやりしています。目が覚めても寝床から出られず、当然、日中も元気が出ず、いままで楽しめていたものにも興味を失うなど、心身の活力が低下してきます。
病気の初期には、活力がなくなることと、不眠が一緒に起きるため、単に眠れないので調子が悪いだけだと思ってしまう人が多くいます。
ストレスによる不眠症
ストレスの時代といわれる現代。転職、転勤、結婚、離婚、病気、近親者の死など、日常生活のさまざまな局面で大きなストレスを感じ、また職場や学校などでは、自分では気づかないうちにストレスにさらされていることも少なくありません。
ストレスが続くと不眠症になりやすいといわれますが、それはどういう理由からでしょうか。
たしかに、ストレスが続くと心理的な緊張不安から眠れなくなることがありますが、これはあくまでも一過性の不眠です。最近なんだか眠れなくなった……という人は、まずは身の回りのストレスをチェックしてみましょう。眠れなくなったころに何か生活上の変化はなかったか、仕事の悩みや人生の悩み、家庭問題などがないかを考え、それらの原因に対処できれば多くの不眠は解消するでしょう。
眠ろうと寝床に入っても眠れない日が続くと、「今夜も眠れないのでは」「眠れなかったらどうしよう」という心配がつのってきます。
この心配のために気持ちが治まらず、緊張が解けずに頭が冴えてしまい、ますます眠れなくなってくるのです。いわば不眠恐怖で不眠になっている状態です。「眠らなくては」と努力して意識的に眠ろうとすればするほど、ますます緊張が高まって眠れなくなるという悪循環が繰り返されるようになります。
実は、不眠症を訴える人の中でもっとも多いのが、この不眠恐怖と関連した慢性の不眠なのです。神経質、几帳面、完璧主義といった性格の人に多くみられるようです。
このタイプの不眠は、寝室では寝つけないのに、居間のソファで座ってテレビを見たり読書をしたりしていると、すんなりと眠れるということがよくあります。眠ることにこだわりすぎず、寝室や寝具の工夫や、眠る前にリラックスを心がけてみるのもひとつの方法
です。
こうした慢性の不眠症は、精神生理性不眠、原発性不眠などと呼ばれます。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠中は筋肉の緊張が弱まります。舌も筋肉ですから、この筋がゆるむことで舌がのどの奥のほうに落ち、気道を塞いでしまいます。
つまり、舌でのどかつまって呼吸ができない状態になるのです。また、あおむけに寝ると首やのどの周囲の脂肪が気道を塞ぐこともあるので、太った人は特に注意が必要です。
一晩に何度も息苦しくなって目が覚めると、当然眠りは浅くなり、身体も休まりません。眠ったはずなのに眠くて仕方がない、こうした場合に睡眠時無呼吸症候群が疑われます。
睡眠が担うもっとも大切な働きともいえる脳の休息も、呼吸の停止によって酸素の供給がうまくいかないため、疲労から充分に回復できません。
さらに、たびたびの無呼吸状態は心臓への負担を増し、血圧の上昇、脳血管の収縮、ストレスホルモンの分泌、心臓病、脳梗塞、糖尿病などさまざまな疾患の悪化要因にもなるのです。
周期性四肢運動障害
眠りに入る直前、うとうとしてきたときに突然足が勝手にピクンと動いて目が覚める、そんな経験はないでしょうか?
こうした四肢の不随意運動(自分の意思とは関係なく現われる運動)が一晩中、周期的に繰り返されて眠りが妨げられるのが、周期性四肢運動障害です。運動神経系の調節がうまくいかないことで勝手に反射が起き、身体の動きが信号となって脳に伝わり、目が覚めてしまうのです。また、眠り際は脳のコントロールがゆるみ、リラックスした状態なので、反射を誘発しやすいです。
この障害は鉄欠乏性貧血や腎機能が低下した人に多いことがわかっており、原因疾患の治療と不随意運動に作用する神経系に効く薬が処方されます。
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)
寝床に横になると、足にむずむずとした不快感が生じて、じっとしていられなくなり、寝つけなくなる症状をいいます。こうした感覚以外にも、虫が身体を這う感じや、身体の奥のほうにかゆみを感じるなどの異常を訴える人もいます。
起きて歩くなど足を動かすことでよくなりますが、夜中に目が覚めたときに症状が現われ、そのまま眠れなくなってしまうケースもあります。周期性四肢運動障害を合併することが多く、どちらも同様の疾患が原因となります。